Jacques de poils du Nez

クラシック音楽のレビューを書く練習

EAN:099923657125

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Richard Strauss: Parergon zu Symphonia Domestica, op.73
Richard Strauss: Panathenäenzug, op.74
Anna Gourari (Pf.)
Bamberger Symphoniker / Karl Anton Rickenbacher
(Rec. July & September 1999 Konzerthalle, Bamberg)


リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss, 1864-1949)がパウルウィトゲンシュタインのために書いたピアノとオーケストラのための協奏的作品2曲―《家庭交響曲余録》と《パンアテネ祭の行列》―をアンナ・ゴウラリ(Anna Gourari. 1972-)の独奏とカール・アントン・リッケンバッヒャー(Karl Anton Rickenbacher, 1940-2014)の指揮するバンベルク交響楽団の演奏で聴く。作品を委嘱したウィトゲンシュタインは、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの兄で、ウィーン出身のピアニスト。実家は製鉄事業で成功したオーストリア随一の大富豪であった。ウィトゲンシュタイン第一次世界大戦に従軍して隻腕となったが、左手だけでのピアノ演奏の道を模索。既成の曲を左手で演奏できるように編曲したり、実家の財力を駆使して作品を作曲家たちに発注したりして、左手で演奏できるレパートリーを広げた。リヒャルト・シュトラウスウィトゲンシュタイン家に出入りしていたため、作品を依頼され、1925年に《家庭交響曲余録》を書いた。ただ、作品の評判があまり良くなかったので、今度はリヒャルト・シュトラウスが自発的に《パンアテネ祭の行列》を作曲して1927年に発表した。こちらも大した評判にならず、リヒャルト・シュトラウスはこの分野での曲作りを控えるようになった。
これらの曲は、右腕が故障したピアニストにとっては貴重なレパートリーのひとつなのだが、同じくウィトゲンシュタインが委嘱したモーリス・ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲ほどに演奏されているとは言い難い。この曲を発表したときには、既に作曲業界ではクロード・ドビュッシーアルノルト・シェーンベルク等が台頭していて、リヒャルト・シュトラウスの音楽はもはや作法が古いと思われていたからだ。先進か保守かという分け方で保守的傾向の作品を蔑ろにする考え方は第二次世界大戦後に一層強まったことで、この曲の演奏機会は自然と減ることになった。

ゴウラリとリッケンバッヒャーの録音は、これらの曲の復権にふさわしい演奏である。